ワッチャワンダフルワールド。

感想を書こうとするとどうしても自分語りから逃れられない題材だったので、こそっとこちらに置いておく。

舞台「太陽のかわりに音楽を」を観てきました。

ネタバレしつつ、でも1回しか観てないので、間違ってたらごめんなさい!

この舞台の存在が世界を変えるわけではないけど、観た人を確実に幸せな気分にするし、観た人の明日はちょっと変わるかもしれない、くらいのお話しが大好きだ!

 

 

自分もメディアの世界の下っ端の方で働いているので、深夜ラジオの王様・ANNの草創期のお話しというのが、おそらく刺さるだろうなぁという予感があったので頑張ってチケット取ったら案の定でした。

ストーリーからラジオへの愛があふれてて、似た業界にいて共通項がありつつも、ラジオ業界の現実を知っているわけでもないっていう程よい距離感のおかげか、その愛がしみて、泣けてしょうがなかった。ラジオっていいよねぇ…ほんっとに。

あともちろん、自分が学生のころに聴いていたラジオのこともおもいだした。わたしにとっての糸居四郎は、ピストン西沢秀島史香です。全然キャラ違う(笑)

 

 

暗転して、別所哲也さんの普段とは違う声色の振動が、暗闇の中で空気を伝わって耳に届いて音になる。まるで深夜ラジオをイヤホンで聴いているのの疑似体験のような冒頭のシーンで、ぐーっと引き込まれてしまってもうそこから早々に涙ぐんだ。

 

別所さんに、自分が最初にお世話になった大先輩の姿が重なっちゃったんだよなぁ…好奇心旺盛で、柔軟で、懐深く、何よりも情熱と信念を持って仕事に取り組むアラセブンティーなおじいちゃん。リアル糸居さんの次の世代の人。

社会人になったばかりの頃に彼に出会えたことや、彼と一緒にやっていた番組の中で出会った人たちとの良い思い出貯金があるから、自分はこのちょっと普通とは違う過酷な仕事を続けられているので、そういう職場にめぐりあった自分は運が良いのか、それとも悪いのか…ってあらためて思い馳せました。

最近はもっぱら小松さん演じる倉本さんに近い感じで仕事しちゃってるような気がするので、小者感が愛おしい…って言っちゃうと自己憐憫がすぎるかな?でもそんな人も糸居さんやトロイくんの情熱に絆されて、肚くくってリスナーの為に頑張れるってことは、やっぱり絶対ラジオが好きなんだろうな。わかるよクラモトさん!

 

 

一番好きな台詞は、別所さんと宮近くんの2人のシーン。

自殺をほのめかすA子さんが何故、自分のようなロートルパーソナリティーにハガキを送ってきたのだろう?と問う糸居さんに対して、トロイくんが言った

そんなの決まってるじゃないですか…糸居四郎が好きだからですよ!

なんでこんな当たり前のこと、わかってないの!?っていうトーンでトロイくんが感情を直球で投げるので、糸居さんはおもってもみなかった意外なことを言われたっていう体で戸惑って、そのあとじわじわ嬉しくなっちゃって照れて、右往左往するのをみながら、わたしも嬉しくて涙がとまらなくなった。

どうしてA子さんの気持ちがトロイくんに分かるのかって言えば、勿論トロイくんも糸居さんのことを大好きだからだよね。「糸居四郎が好きだから」はトロイくんの気持ちでもあって、ある意味愛の告白で。好きな人、尊敬する人が、自分の価値に気づいてないのってもどかしいよねー!

で、年を重ねて、実力も認められて尊敬を集めているベテランはさ、一方で陰口も叩かれるし、周囲のスタッフも小松さんのように大物!ヨイショ!って扱ってくる人ばかりになって、距離できちゃったりして、無意識に寂しく思ってたりするんだよね、多分。だから「好き」ってこんな風にまっすぐ言われることなんて、きっと久しぶりだったんじゃないかなっておもうんだ。

リスナーに若いも年寄りもない、とは言っていたけど、若い人が屈託なく出せる直球の感情のエネルギーって、年をとればとるほど、出す瞬発力はどうしても衰えるよなぁって自分でもおもうから、糸居さんもきっとトロイくんの直情が心に響いたんじゃなかろうか。

ラジオの魅力が分からなくて「嫌い」だというトロイくんと、ベテランながら新しい番組への挑戦を始めたばかりの糸居さんが、時を超えて出会えたことは、どちらにとってもとても幸福な邂逅だよね。

 

エレベーターがランダム稼働のタイムマシンになっているのも、すごく良かった。ANNを「知らない」故、「ラジオのない世界にいきたい」とぼやくトロイくんに、その魅力と歴史を教えてあげようって意思を持ってるみたいで。

これはもう出演者であり、ストーリーテラーだとおもうの。

『タイムスリップの基本は、来た時と同じ状況を再現すること!』ってこないだ岸くんaka将也が言ってたけど(笑)、朝4時に一旦退社してすぐラジオブースのあるフロアに戻ってこようとすると50年前に飛んで、3階でチョコレートを買ってラジオブースのあるフロアに戻ってこようとするとランダムにタイムスリップするっていうのが、わかる限りの発動案件で。

じゃあ、トロイくんはどうやって現代に戻ってきたのかな?

エレベーター擬人化モードで観ていた者としては、トロイくんがラジオの力を知ってラジオを好きになってくれたから、東京タワーから戻ってきて、みんなの所へすぐに戻ろうとあんなに避けてたのに乗ってしまって。到着したらもう現代だったんじゃないかなぁ、と妄想する。これだと全然お別れ言えなかった設定になるので、めちゃくちゃ切ないけど、でもとても良い、というかわたしがそういうストーリー好き(笑)。

台本の初稿とかには何かあったんじゃないかなぁ…なかったとしても、きっとどうやって帰ってきたかは設定があるだろうなぁって想像するんだけど、そこをバサッとカットしてるの、潔い!っておもいました。

まぁでも、現代で自分とみんなが写ってる写真を見つけた時に、トロイくんそんなに心痛そうな雰囲気は出してなかったから、ちゃんとお別れしてきたのかな…もし、現代シーンで板チョコ食べたりしてたら、グッときすぎて更に泣いたかも。

 

で、宮近くんakaトロイくんの話。

最初のANN 0のシーンで全然覇気がなくて、やる気がない理由とか一通りわかるんだけども。わかりやすく悪いところがあるキャラじゃなくて、やりたいこと(音楽)には熱をもってて、それをやれるなら利のある他の仕事(ラジオ)も一応取り組んではみるっていう真面目さと打算が共存してたりとか、とは言え「知らない」を早々に「嫌い」に結びつけて拒絶するあたりとかが、すごく今の普通の若者って感じで。

「普通」ってお芝居で表現するのすーごく難しいじゃないですか。それを自然な佇まいで表現してて、宮近くん流石だなぁとおもいました。

踊るのって結局表現だから、振り付けをなぞるんじゃなくって、踊れる人はお芝居上手、っておもってるんですけど、宮近くんって典型的なそのタイプの人っすよね。わたしの中の分類では、森山未來くんとか、満島ひかりちゃんと同じ集合体。

でも、逆に宮近くんは踊ると上手すぎるので、個人的には踊るシーンは最後のA子さんとのだけでよかったのではないかなぁ…とはちょっとおもったかな。

インターミッション的に、一瞬だけ踊る宮近くんはめちゃくちゃ美しいからいいもん観たーとはおもうので、よい意味でサービス演出だなってうれしいんだけども。踊ると急にトロイくんじゃなくって宮近くんが香ってしまうので、物語に入り込んでるのにそこだけちょっと冷静にもどってしまった(苦笑)。多分トロイくんが「バンドマンで音楽が好き」なのに、演奏したり歌ったりするシーンがないのに踊るから、余計そう感じる気がする。

君が踊り 僕が歌う時 新しい時代の夜が始まる

っていうところからバレエダンサーのA子さんと、バンドボーカルのトロイくんってキャラが生まれたのかなぁっておもうので、宮近くんの歌が聴けたらもっと腑に落ちて気持ちよかったのでは、と。…贅沢かな?

歌と言えば、一瞬別所さんが美声を聞かせてくれるんだけど、ジャン・バルジャン…!っておもってめっちゃ興奮した。あれもサービス演出よね。

とは言え、踊り子みやちが、ケガでもう踊れないから生きていたくない!っていう女の子の感情を全身で受け止めているのは、現実との倒錯感がすごくて、すごかったです(語彙レス)。

あとトロイくんの最後の語りもたまらなかった。「この夜を一生忘れない」がものすごく心に響いてきたのは、きっと宮近くんが「この舞台でトロイという役を演じたことを、一生忘れない」っていう感情をのせてるんじゃないかな、と勝手に想像。

 

 

 

さて、小文字で。

一個だけ気になったのがセット。あんなに音楽を大切にしている舞台なのに、音楽の入れ物であるレコードが積まれた山の上を、時おり土足で歩くのだけは、どうしても違和感あった。舞台上がレコードに埋もれてるの自体はすごく素敵なんだけども。

テーマから考えてもどうしてそういうことになったのか不思議。

余談ですけど、Switchインタビューだったかな?対談する場所が舞台上だった時に、宮沢りえさんが「舞台の上は土足厳禁(衣装の靴は除く)」っていう舞台人にとっての大前提を守らずにはいられなくて、収録の流れをさえぎっても靴を脱ぎだすシーンをおもいだした。その時に「自分は舞台上にこの靴であがるのはできないから脱ぐけど、リリーさんは脱がなくていいですよ」っていう趣旨のことを仰ってて、自分がポリシーを守ることと、それを他に強要しないのってとても大事だなっておもったから印象に残ってるの。

それと同時に、板の上ってそういう特別な、大事な場所*1なんだよね。

もうひとつ余談。最初の方で、女性ディレクターが母から影響を受けてのラジオ愛を語ってる時、「オーケン大槻ケンヂね」「電気、電気グルーブね」あたりのサブカルっぷりにわたしその世代ではないながらとてもツボったんだけども、周りはあんまりそんな空気じゃなくて。「世代ギャップ…?それともこういうの面白がらない客層…?」っておもってたら、小松さんがトロイくんに「お前髪茶色いな!」って言うだけでめっちゃ笑いがおきたので、若干複雑な気持ちになったりした。

この台詞、最初に高田くん演じるミクモくんが茶髪をいじって、次に小松さん演じるクラモトさんが、2回か3回くらい「髪茶色いな!」ってつっこんで、あと西原さん演じる東海林さんまで1回言うっていうリピートによってどんどん面白みが増幅する類の笑いだとおもうんだけども、特定の人のファンがリピートしてる故に、ストーリーの中で最初に発言される時からもう大きな笑いになってしまっているんだよね。そういう笑いの中に自分の好きな演者さんがいるの嬉しいし解るんだけども、でも一回しかみない自分は、一瞬疎外感を感じてしまってなぁ…感情って複雑だよね(笑)

 

それにしてもあんまり前情報をいれずに行ったので、ミクモくんが出てきた時に、「ん?高田くん以外の若い男性の役者さんでるんだっけ?ってしばらくおもってみてたのは特記しておきます。

生で高田くんのお芝居みるの初めてだったんだけど、マジで普通の俳優さんなんだね、なんて当たり前のことを言う。ミクモくんそのものでしかなくて、あの舞台のピースとしてめちゃくちゃハマっていたんだけど、あらためて冷静におもいかえすと、ミクモくんの笑い声の癖、何回やっても一緒なのとか超スゴいよね。そう演じてるっていう風にはみえなくて、ただただそういう笑い方に癖のある人として“いる”んだもん。わたしにとって今はフジの競馬番組にたまに出てくる人だったんだけど、想像以上にめっちゃすごい人でした。

 

 

舞台終わって、そのまま仕事に戻って徹夜だったので(鬱)ANNは聞かなかったんですけど、糸居五郎さんのお声を検索してしまいました。Go Go Go and Goes On!ってこういう調子なんだね。

宮近海斗のANN0』を聴いた時にはわたしはそこまで強くはおもわなかったんだけど、宮近くんレギュラーでANNやってくれないかなーって今めっちゃおもってる。

みやちのGo Go Go and Goes On!もっと聴きたいし、この50年前に本当にあったかもしれないフィクションの未来が、ノンフィクションに還ってくるのは、ANNが

君が踊り ぼくが歌うとき 新しい時代の夜が生まれる。

太陽の代わりに音楽を。青空の代わりに夢を。

から始まっている美しさと対をはれる夢のある展開だとおもうんだけども。偉い人!!

 

もしくはJ-WAVE TOKYO MORNING RADIOに出してください(言霊)。

一回でもいいから。

舞台観る前は、やたらカテコのことばかり流れてらっしゃるなっておもってたけど、あれはだって、しょうがない。小松さんと別所さんに挟まれ、初々しいみやちがカワイイんだもの。別所さんとみやちのラジオも、絶対かわいいので、どなたか。偉い人!!(大声)

 周年記念のものの再演はなかなか難しいだろうけど、もしあればまた絶対観たいです。

明日の千秋楽まで、みなさん無事に駆け抜けられますように。

 

*1:実はそういう感情論ではなく、舞台の外から危険なもの、ゴミとか石とかを舞台上に持ち込まない安全策の為に禁止されてるらしい、ともきいたことがある。